interview

山本直樹

連合赤軍を描いた問題作『レッド』が話題を呼んでいる
エロ漫画家・森山塔としてデビューし
以降、一貫して「エロ」をテーマに過激な性描写を描き
作品を生み出し続けてきた山本直樹
そんな彼がなぜ今、連合赤軍を描くのか――

(インタビュー・撮影/北村ヂン)

0806_aniki_l.jpg

●「面白」が一番偉いっていうこと

――まず、漫画を描いたり何かを表現したいという意識を持ったのはいつ頃だったんですか。

 漫画を描こうと思った時期はわりとよく覚えているんですよ、大学2年の11月くらいかな。それまでも漫画は大好きだったんですが、ただマニアックに読んでただけだったんですよね。ちょうど、当時ニューウェーブって呼ばれてた漫画の出始めで、一番面白い時期だったんですよ。萩尾望都や大島弓子、山岸涼子。それから吾妻ひでお、大友克洋なんかをすごい読んでいて、酒を飲んでは漫画の話ばっかりしていました。そうしたら友達が「そんなに漫画が好きなら自分で描けばいいじゃん」って。それで「ああ、そうか」と思って、早速次の日に文房具屋さんに行ってケント紙と墨汁とGペンを買ったんですよ。
 大学では国文学を勉強していたんで、小説なんかも書いてたんですが、自分で読んでも「しょうもないなー」みたいな内容だったんで、こりゃダメだなと。その点、漫画の方が間口が広いからなんとかなるんじゃないかと思ったんですよね。『週刊少年ジャンプ』から『ガロ』まで色んな漫画があるじゃないですか。

――最初はどんな漫画を描いていたんですか。

 うーん、まあ頭のよさそうな感じの漫画を描いてましたね。大友克洋の短編のヘタな模倣みたいな、つまんないヤツを。しかも描こうとしては断念して、最後まで描き上げられないっていうね。そんな感じでウダウダしてました。

――大友克洋みたいな漫画を描いていた人が、なぜ「森山塔」としてエロ漫画でデビューすることになったんですか。

 その後、小池一夫先生がやってる劇画村塾に入ったんですよ。大学5年の頃だったかな。そこには漫画に対してギラギラしてる人たちがいっぱいいたんですごい影響を受けましたね。同期にとがしやすたか、堀井雄二、原哲夫とかがいて。原哲夫はもうプロのアシスタントをバリバリやってたんで、ほとんど会ったことはなかったですけどね。それで「こんなに漫画を描くヤツがいるんだから、みんなで今流行ってる同人誌を作ったら面白いんじゃないか」って思って仲間数人で同人誌作ったんですよ。

――すごいメンバーの同人誌ですね! コミケとかには行ってたんですか。

 行ってましたよ、まだ会場が大田区産業会館とか川崎市民プラザっていう時代でしたけど。そこで吾妻ひでおさんの『シベール』っていう、日本初のロリコン同人誌と出会って「これはすげえ!」って思い、仲間内の同人誌を描くに当たっても「俺、エロ描くわ」って。それでエロを描いてみたら、ものすごく職業適性に合ってたんですよね。描いてて楽しいし、みんなが褒めてくれるし、こんないいことないじゃないですか。
 後に、その時描いた8ページくらいのエロ漫画を出版社で編集手伝いをやってた友達に見せたら別の出版社を紹介してくれて、いきなり月一の連載が決まったんですよ。

――それが森山塔としてのデビューなんですね。

 そうです。同時に本名の山本直樹としても青年誌に持ち込みをしていたんですけど、山本直樹名義でのデビューも森山塔の半年後くらいだったんじゃないかな。当時はまだ、エロと一般向けの漫画っていうのを24歳なりに考えて描き分けをしてたんですよね。まあ、大変でしたけど。そんなに量産をしたことがないのに、いきなり色んな仕事が舞い込んで来てましたから。森山塔はやっぱり評判がよかったんですよね。

――最初は森山塔としての評価の方が高かったんですか。

 だって自分でも描いてて楽しかったですからね、エロの方が。最初の連載は水道橋の出版社に原稿を届けに行ってたんですけど、出版社に届けてから水道橋の駅に戻るまでの間に次回のストーリーが全部完成してましたから。もうアイディアがどんどん湧いてきてましたね、本当に職業適性に合ってたんですよ。

――そんな、エロを描いてた森山塔と、ストーリー重視な物を描いてた山本直樹ですが、今は特に区別せずに山本直樹名義でエロも描いてますよね。

 最初、山本直樹は青年誌向けっていうのを考えて遠慮してたんでしょうね、別に遠慮しなきゃよかったんだけど。でもエロいことが大好きなんで、エロいことばっかり一生懸命考えてたら、その中でどんどんストーリーが出てきちゃったんですよ。それで「これはエロ漫画雑誌に載せるにはもったいない、もっと売れるはずだ」って(笑)。それに、同じエロを描くんでも青年誌でやった方がインパクト強いじゃないかって思ったんで。

――確かにインパクトは強いですよ。でもその結果、山本直樹名義で出した『Blue』が有害コミック指定されてしまいましたよね。

 そうですね。有害コミック指定されて、発禁・回収になった時は、さすがにちょっと落ち込みました。でも、「こんなに面白い漫画が世の中から消えるはずはない」っていう自信はありましたね。『Blue』は、ストーリー的な物とエロ的な物がはじめて上手いこと組み合わせられた一冊でしたから。「面白いから読みたい」っていう人が沢山いれば、それが圧力になるんですよ。

――ああ、権力からの圧力に対して。

 「あんなに面白かった漫画が読めないなんて」って思う人がいれば、別に圧力団体なんか作らなくても、自然と「山本直樹には口を出さない方がいいかな」っていう暗黙の了解が出来てくる。だから、その後はあんまりうるさいことを言われたことはないですからね。

――発禁になったことによって、表現が萎縮してしまうタイプの人もいると思いますけど。

 俺は逆にいい気になっちゃって、もっと過激になってたけど(笑)。でも、面白い物を描いてればなんとかなるんだよ。「面白」が一番偉いっていうことなんですよね。面白・イズ・ベスト!

●キチガイ以外の人に魅力を感じない

――その、エロ+ストーリーという路線に加えて『ありがとう』辺りからは社会問題的な要素も取り入れているんじゃないかと思いますが。

 まあ『ありがとう』はネタとして、当時色々あった社会問題を集めただけで、特にそれに対してメッセージがあったわけじゃないんですけどね。あるとすれば、「俺も早くお家に帰りたい」っていうことですよ。週刊連載やってるとお家に帰れないじゃないですか(笑)。
 『ありがとう』は、単身赴任でお家に帰れなかったお父さんが、お家に帰ったら大変なことになっていたという漫画なんだけど、あれは俺自身の「お家に帰りたい」という願望の現れなんですよ。『ありがとう』が終わってから仕事場を引き払って、自宅に仕事場を作ったんですが、それからはずっとお家にいますけどね。

――『ありがとう』や『ビリーバーズ』、今回の『レッド』もそうですけど、山本先生の漫画の中には「一般社会から切り離された空間でおかしくなっていく人」っていうのが多く登場しますよね。

 そういう人が好きなんですよね。キチガイを描くのが好きなの。

――キチガイの魅力ってどういうところですか。

 キチガイの魅力というか、キチガイ以外の人に魅力を感じないんですよ。何でみんなキチガイを描かないんだろうって思いますけどね。正気な人描いたって面白くないじゃん。キチガイは面白いですよ……キチガイ、キチガイ、キチガイ!(なぜか「キチガイ」を連呼する山本先生)

――エロっていうのもある種キチガイみたいなものですからね。普通に見える夫婦が、夜になったら鬼のようなセックスをしてたり……。

 そうですよね。まあ、キチガイとエロがどういう風に結びついているのか、ちゃんと考えたことはないですけど。
 とにかく、俺は漫画を描き始めたのが遅かったんで漫画的体力がないんですよ。漫画を描くのってものすごく面倒くさい作業なんで、「描きやすい物」「描きたい物」を描いてないと、体力も気力も続かないんですよね。

――その描きたい物っていうのがキチガイとエロだったんですね。

 ……なのに、『レッド』というエロのほとんど出てこない漫画を描き始めてしまったというのは不思議なんですけどね。
 前に松尾スズキさん原作で『破壊』っていうのを描いたんですけど、それもエロは出てくるものの、わりと少なかったんですよ。ブラチラくらいしか出てこない回もあったし。そういうのを描けたので「もしかしたらエロなしの漫画も描けるのかもしれないな」って思ったんですよね。
 それと、『ビリーバーズ』の頃から連合赤軍関係の本を読みまくっていたので、周りに「誰か連合赤軍の漫画を描いた方がいいですよ! 俺は描かないけどね」ってずっと言ってたんですね。でも誰も描かなくって、そんなある時、講談社から「山本さんが描いて下さいよ」って言われて、酔ってたもんで、勢いで「じゃあ描こうかな〜」なんて言っちゃって……。

――連合赤軍の話って、描いても許される漫画家と怒られちゃう漫画家がいると思いますよ。普通の漫画家さんにはなかなか触れづらい題材なんじゃないですかね。

 そういう意味では、俺が描けば大丈夫だろうっていう自信はありましたね。……でもやめとけばよかった、こんな面倒くさい(笑)。1970年の町並みとか、車とか、髪型とか、服装とかいちいち調べなくちゃならないんですよ。江戸時代だったら誰も知らないからいいけど、1970年とかだと結構みんな覚えてるじゃないですか。言葉遣いなんかも特殊だったりして、そんな面倒くさい物を描きたくなかったですよ。

――『レッド』はまだ始まったばかりですが、要はこの連合赤軍という集団が、段々キチガイになっていくという物語ですよね。

 そうですね。「世の中をもうちょっとマシにしよう」とか、「人のためにいいことをしよう」と言ってた人たちが、いつの間にかおかしくなって、内ゲバで十数人も殺し合いをすることになってしまったという……。「なんだよそれ!?」っていう感じじゃないですか。そんなの物語として面白いに決まってますからね。
 そういうことって実は歴史上、何回も起こっているんですよ。新撰組だってそうだし、戦争末期の日本軍だってそう、ポル・ポトも、文化大革命だってそういうことになってるじゃないですか。

――権力と闘っていて、いかんともしがたくなるとそれが内に向かってしまうもんなんですかね。

 色んな見方が出来ると思うんですけど、これは調子に乗った結果だと思っています。人が調子に乗るとロクでもない結果が訪れるんですよ。

――権力に立ち向かっていた集団だったのに、その中で権力を持つと……みたいな。

 そういう言い方ではなく、「調子に乗る」っていう言葉で普遍化したいんですけどね。人間、油断すると調子に乗るじゃないですか。そうなると大体大変なことになるんですよ。
 ここで言う「調子に乗る」ってどういうことかと言うと、「死を忘れる」っていうことなんですね。死にマヒしちゃうんですよ。それは、いっぱい人を殺したからっていうのもあるけど、その前の段階として「大きな目的のためになら自分は死んでもいい」ってずっと思ってると、「目的のために他人が死んでもいいんだ」っていうことにすり替わっちゃう時があるんですよ。
 俺自身の中でも「人間、いつか死んじゃうじゃん」っていうのは重要なテーマとしてあるんですけど、それは「死んでもいい」っていうこととは違いますからね。調子に乗って、そういうことを忘れてはいけないんですよ。
 ……まあ俺も調子に乗って、ついつい漫画にマンコを描いちゃうんですけど(笑)。隠した方がエロいっていうのは重々分かってるんですけどね。絵的にも、内容的にも、エロティシズム的にも、全部描かない方がエロいんだっていうのは分かってるのに、調子に乗って描いちゃうんですよ。……で、印刷されないという(笑)。

●自分が100%肯定していたことから逃げ出すっていうこと

――『レッド』で特徴的だなって思ったのは、永田洋子(作中では赤城)の女性的弱さを描いているところですね。他の連合赤軍関係の作品では、あまりそういう描き方をされてないですよね。

 それは文献を読み込んだ結果、こんな感じの人だったんじゃないかなって判断したんですよ。永田洋子の本だけ読んでるとすごい偏っちゃうんだけど、色んな本を読んでくと、「真実はこうだったんじゃないかな」って見えてくるんです。
 永田洋子のことを「鬼ババ」と呼んでる人もいるけど、実は「鬼ババ」みたいな人の方が弱い人なんじゃないですかね。今で言うと精神的に弱いところがある不思議ちゃんみたいな子がリーダーになったらこういうことになっちゃた、みたいな。

――弱い自分を理論武装した上で権力を持った結果、暴走してしまったと。

 しかも、そんな不思議ちゃんをサポートするマッチョな男も付いていたというね(笑)。

――『レッド』でこれから描きたいと思っているテーマってどんなことですか。

 死んじゃう人、逃げちゃう人、捕まっちゃう人……それぞれの結末を描きたいと思っています。やっぱり最後までを見せるしかないですよ、この漫画は。中でも俺は「逃げ出した人」に一番興味がありますね。だってそれって、それまでの自分を全否定するっていうことですからね。
 高校の運動系の部活とかって、「辞めると自分が人でなしになるんじゃないか」っていう気がして辞められないんですよ。俺はバスケットボール部だったんですが、周りはみんないいヤツで、コーチも後から考えるとすごい人格者だったんだけど、練習は死ぬほど辛くて辞めてった人もいっぱいいました。でも、俺は人でなしになっちゃうんじゃないかと思って辞められなくってね。そこで辞めるっていう決断が出来る人っていうのはすごいなって思います。
 それの究極の形じゃないですか、連合赤軍って。バスケ部じゃ人は死なないけど、連合赤軍では十数人死んでるわけだから。そこまで命をかけて100%肯定していたことから逃げ出すっていうことはすごいことだと思いますね。

――今回の場合は、実際にあった話なので当然結末も決まっているんでしょうけど、他の長編を描く場合って、あらかじめ最後までストーリーを決めてあるんですか。

 『レッド』はもう、あさま山荘に行くしかないですからね。今描いてるもうひとつの連載『堀田』の方はこれからどうなるか自分でも全く分かりません(笑)。あれは、漫画でどこまでメチャクチャやるのを許してもらえるのか、みたいな感じだから。まあ、最終回の最後の2ページくらいは決めてるかな。間に何を描いても終われるエンディングを用意してますから。『ありがとう』なんかもそんな感じで、最後だけは決めてましたね。

――『レッド』はこれからあさま山荘での結末に向かって突き進んで行くんだと思いますが、今後もあくまでドキュメンタリー・タッチというか、資料に基づいて話を進めて行くんですか。

 時々、筆が乗ってきてキャラクターが勝手にしゃべり始める時もあるんで、その時は勝手にさせておきますけど、基本的にはあったことほぼそのままを描いてこうとは思っています。

――そういう意味でも、今までの中でかなり特殊な作品になりそうですね。

 だから、ラーメン屋さんがケーキを作り始めたようなもんなんですよ。こういうのを描いてると『堀田』みたいなのも描きたくなっちゃう(笑)。そこでバランス取ってるんですね。だから『堀田』を終わらせられないんです。

――最後に、『レッド』を通じて、今の若者達へ伝えたいメッセージを教えて下さい。

 そういうのは二次的、三次的な物ですからね。俺は面白い物を描きたいだけなんで、それを読んだ人が自由に感じてもらえればいいですよ。まあ、二次的に若い人が読んで「現代史って面白いな」っていうのが伝えられたらなとは思いますね。連赤の本とか読むと本当に面白いですから。もっと本読めよ、勉強しろよっていうところですかね。


Profile/漫画家。1960年北海道生まれ。84年に「森山塔」名義でデビュー。91年『Blue』が初めて東京都条例で有害コミック指定を受け、当時沸き起こりつつあった有害コミック論争の中心的存在となる。その後も過激な描写は抑えられることなく『ありがとう』や『フラグメンツ』『ビリーバーズ』など数々の問題作、話題作を生み出し続けている。現在は雑誌「イブニング」にて、連合赤軍をテーマにした『レッド』を連載中。

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.shinjukuloft.com/cgi/mt/mt-tb.cgi/879

コメントを投稿

(いままで、ここでコメントしたことがないときは、コメントを表示する前にこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまではコメントは表示されません。そのときはしばらく待ってください。)

Copyright (C) 2007-2017 PinkMoon.Ltd, All Rights Reserved.